Research

繁殖干渉によるニッチ分割

よく似た種類ではエサや住んでいる環境が分かれています。この現象は「ニッチ分割」や「すみわけ」と呼ばれています。それでは、なぜニッチを分けないといけないのでしょうか。私はこれまで検証されていなかった「繁殖プロセスにおける種間相互作用(繁殖干渉)」に着目し、テントウムシを対象にして解決を試みています。

クリサキテントウは松につくマツオオアブラムシだけを食べるスペシャリストです。その一方、近縁種のナミテントウはさまざまな種類のアブラムシを食べるジェネラリストです。系統も近いし見た目もそっくりなのに、どうしてニッチが異なるのでしょうか。

左:交尾しているクリサキテントウ。中:ユキヤナギにいるナミテントウ。右:アカマツにいるマツオオアブラムシ。

おもしろいことに、マツオオアブラムシは“アブラムシらしくなく”すばやく歩きます。そのため、ナミテントウの小さな孵化幼虫にとってはとても捕まえにくいことが分かりました。クリサキテントウの孵化幼虫は、さすがにスペシャリストというか、そこそこうまく捕まえられました(Noriyuki et al. 2011 Ecol Entomol)。

左:クリサキテントウとナミテントウの孵化幼虫にアブラムシ各種を与えたときの捕食成功率。右:クリサキテントウの幼虫がマツオオアブラムシを捕まえている様子。

ただし、クリサキテントウも“タダ”で適応しているわけではありませんでした。マツオオアブラムシを捕まえるために、クリサキテントウの母親は大きい卵を産んで、孵化した幼虫にたくさんの栄養卵を分け与えています(Noriyuki et al. 2014 Eur J Entomol)。それに引き換え、子の総数を犠牲にしています(子の大きさと数のトレードオフ)。

さらに、マツオオアブラムシはクリサキテントウにとってもナミテントウにとっても、栄養的にあまり好適ではないエサであることが分かりました。クリサキテントウの幼虫にとっては、野外でいっさい食べないエサのほうがおいしいのです(Noriyuki & Osawa 2012 Entomol Exp Appl)。

左:クリサキテントウとナミテントウの幼虫に各種のアブラムシを与えて育てたときの成長率。右:野外におけるクリサキテントウの幼虫。

以上の結果から、「クリサキテントウはさまざまなエサを利用できるのにもかかわらず、野外ではコストをかけてまで、捕まえにくく、おいしくないエサだけを食べている」と考えられます。

そこで私は、「クリサキテントウはナミテントウから繁殖干渉を受けるため、同じニッチを使えないのではないか」と考えました。実験を行なったところ、その仮説をサポートする結果を得ました(Noriyuki et al. 2012 J Anim Ecol)。

クリサキテントウとナミテントウを一緒にしたとき同種と交尾できた割合。クリサキテントウは相手種がたくさんいると同種どうしでほとんど交尾できなくなる。その一方、ナミテントウは相手種からの影響を受けない。

一連の結果から、クリサキテントウはナミテントウとの相互作用を避けるために、野外では成長に適していないエサをあえて(仕方なく)選んでいることが示唆されました。

 

栄養卵の進化における適応と制約

テントウムシやカメムシなどの昆虫、あるいはカエルやカタツムリの仲間では、母親が自分の子どもに孵化しない卵(のような物質)を栄養として分け与える種類がいます。これは「栄養卵」と呼ばれています。

栄養卵

テントウムシが孵化したようす。一部の孵化しない卵(矢印)が「栄養卵」として消費される。

それでは、なぜこのような行動が一部の種で進化したのでしょうか。というのも、母親は初めから「大きい卵」を産めば、同じ資源量を子どもへ投資できるからです。

では、母親がきつくて大きい卵を産めないため、栄養卵が進化したと考えられてきました。この要因は「形態的制約」と呼ばれています。はたして、形態的制約は卵サイズを決める上で重要なのでしょうか。

形態的制約

私はまず、ウラナミジャノメというチョウを用いて、卵の大きさにかかる形態的制約の効果を評価しました(このチョウは栄養卵を産んでいるわけではありません)。9月に発生する成虫は6月に発生する成虫によりも体サイズが明らかに小さいにもかかわらず、同じくらい大きい卵を産んでいました。また、それぞれの世代内においても、小さい母親は大きい母親と同じくらいの大きさの卵を産んでいました。つまり、ウラナミジャノメでは卵サイズに形態的制約がそれほどかかっていないことが示唆されました(Noriyuki et al. 2010 Ann Entomol Soc Am)。

ウラナミジャノメ形態的制約

次に、栄養卵を産むことが知られているテントウムシ2種を用いて、卵サイズにかかる形態的制約を評価しました。クリサキテントウはナミテントウと体サイズがほとんど変わらないものの、明らかに大きい卵を産んでいました。また、それぞれの種において、小さい母親は大きい母親と同じくらいの大きさの卵を産んでいました。つまり、栄養卵戦略を採用している種であっても、卵サイズにかかる形態的制約がそれほど重要でないことを意味しています(Noriyuki et al. 2012 Popul Ecol)。

クリサキ形態的制約

それでは、なぜ栄養卵を産むのでしょうか。私は、環境の質が大きく変動する場合、母親は栄養卵を用いることで無駄のない投資ができると考えました。よい環境では、子はそれほど母親からの投資を必要としません。そのとき、大きい卵しか産めない母親は、子に過剰に投資してしまうことになります。一方、栄養卵を産むかどうかを柔軟に判断できる母親は、環境によって投資量を調整することができます。私はこの考えを数理モデルで確かめました(Noriyuki et al. 2012 Popul Ecol)。

栄養卵理論

一連の研究により、栄養卵が進化した理由は、卵サイズにかかる形態的制約ではなく、変動する環境に対する適応であると結論できます。より一般的には、形質の進化における制約と適応の相対的な重要性について示唆を与える研究であるといえます。くわしくは、鈴木・大澤(2016)をご参照ください。

 

気候条件によらない休眠戦略の進化

日本のように四季が移りゆく地域では、生物は季節に対応していかなくてはいけません。昆虫では、休眠にかかわるメカニズムが精緻に進化したことがよく知られています。多くの昆虫において気温と化性(年間の世代数)が相関するというパターンは、「季節適応」の考えを支持しています。

化性

化性の地理変異についての一般的なパターン。緯度もしくは標高の高い地域では、化性が少なくなる。逆に、温暖な地域では、化性が多くなる。

私は、「季節適応」のパラダイムに一致しない系を調べることで、休眠について新たな解釈を提示しようと試みました。ウラナミジャノメというチョウでは、化性が緯度によって変化するのではなく、地理的にモザイク状に変異しています。この現象は、気候条件だけではほとんど説明できません。私はまず、分子系統解析によって、これらの化性がそれぞれの地域における進化の産物であることを示しました(Noriyuki et al. 2010 Ann Entomol Soc Am)。

化性地図

おもしろいことに、兵庫県家島諸島では、隣り合う 2つの島で化性が異なっています。気温や降水量がほとんど同じであるにもかかわらず、休眠に関わる生活史形質が分化していることが分かりました(Noriyuki et al. 2011 Entomol Sci)。したがって、ウラナミジャノメの休眠の進化を理解するためには、気候条件以外の要因も考える必要があります。

家島

私は、近縁種であるヒメウラナミジャノメとの相互作用を考慮すると、ウラナミジャノメにおける特異な化性の変異をうまく説明できるのではないかと考えています。ウラナミジャノメの化性とヒメウラナミジャノメの分布には特定のパターンが見られます。休眠についての従来の研究では、種間相互作用の重要性はほとんど見過ごされてきました。休眠性の種間差など、これまで注目されてこなかった問題の解決にもつながるのではないかと考えています(鈴木 2012 昆虫DNAニュースレター)。